前回は変形性股関節を話で、その中で原因になるものをいくつか紹介しました。
その中のひとつ、先天性股関節脱臼を紹介していきます。
天性股関節脱臼は、股関節の形成異常により、大腿骨頭が寛骨臼に適切に収まらない状態です。
完全な脱臼から軽度の不安定性(亜脱臼)まで、程度は様々です。
未治療の場合、成長に伴い歩行障害や変形性股関節症のリスクが高まりますが、早期発見・治療で良好な予後が期待できます。
先天性股関節脱臼の原因は多因子性になります。
□遺伝的要因 家族歴がある場合、リスクが上昇(約10倍)。特定の遺伝子変異が関与する可能性も指摘されています。
□胎内環境 子宮内のスペース不足(骨盤位や双子妊娠)、羊水過少症が関節の発育に影響を与えることがあります。
□靭帯・関節の弛緩 新生児期の靭帯の緩さ(特に女性ホルモンの影響で女児に多い)が脱臼を誘発。
□環境的要因 伝統的なおむつや抱き方(脚を伸ばした状態で固定)がリスクを高めることがあります。
これらを見ていくと環境的要因については予防することが可能ですが、
その他についてはコントロールできるものではありません。
症状は年齢や脱臼の程度により異なります。
□新生児・乳児期:股関節の可動域異常 脚を広げる動作が制限される。
□非対称な皮膚のしわ 大腿部や臀部の皮膚のしわが左右で異なる。
□クリック音 股関節を動かす際の「カクッ」という音がする。
□幼児期 (歩行開始後)跛行・片足を引きずるような歩き方。
□脚長差 脱臼側の下肢が短く見える。
□股関節の痛みや不安定感 進行すると歩行が困難になる。
□成人期(未治療の場合) 変形性股関節症や慢性的な痛み、歩行障害が現れる。
早期治療が予後を大きく変えます。
□新生児・乳児期(生後6ヶ月未満) パブリック装具:股関節を屈曲・外転位に保つ装具を使用(数ヶ月間)。骨頭を寛骨臼に収めることで正常な発育を促す。
経過観察:軽度の不安定性の場合、定期的な超音波検査で監視。
□生後6ヶ月~2歳 整復とギプス固定:全身麻酔下で脱臼を整復し、ギプスで固定(スピカギプス)。数ヶ月間固定後、装具に移行する。
□牽引療法 整復前に筋肉を緩めるために使用される場合もある。
□2歳以降
□外科的整復 開放整復術で骨頭を寛骨臼に戻し、必要に応じて骨切り術を行う。
□骨盤骨切り術 寛骨臼の形状を改善する。
□成人期(未治療の場合) 変形性股関節症が進行した場合、人工股関節置換術が必要になることもある。